「古民家暮らし」と言うと、たいてい羨ましがられる。
古い梁。土間。猫が昼寝する縁側。たしかに、そういう絵になる瞬間もある。
でも、毎日のほとんどは絵にならない。
今うちで一番よく顔を合わせているのは、妻でも猫でもなくてヤスデだ。
壁にいる。床にいる。この前は天井にもいた。天井から落ちてこられた日には、さすがにため息が出た。
毎日だ。一匹二匹じゃない。
最近はシンクの下が怪しい。なぜか、ネットでヤスデを調べると腐りかけた木材や水のついた枯れ葉が好きとのことで、開けるとカビ臭い。たぶん、どこかで水が漏れている。ここが家の中のヤスデ発生源?
ヤスデを追いかけていたら、家そのものの不具合にたどり着いてしまった。これはもう自分の手に負えないので、業者に頼んだ。
虫だけじゃない。
建てつけも、あちこちで音を立てる。すきま風が入る。建具はがたつく。床は、さすがに踏むのが怖くなって直してもらった。ひとつ直すと、また別のところが気になる。古い家は、そういうものらしい。
そして、冬。
これが一番こたえる。天井が高いぶん、暖めた空気はぜんぶ上に逃げていく。朝起きると、部屋の中で息が白い。壁に断熱材は入っていないから、室温はほぼ外の気温と同じだ。家の中なのに、外にいるのと変わらない朝がある。
正直に言うと、前の家のほうが、暮らしは楽だった。
新築で建てた、そこそこの家だった。冬はそれなりに暖かくて、夏は涼しい。何の不満もなかったはずなのに、いつからか、何か足りないような気がしていた。
今、この古民家でヤスデを見ながら、ふと前の家を思い出すことがある。あー、あの家ではこんなことなかったな、と。
でも私は、この古民家が好きです。
大きくない。問題ばかり。寒いし、虫も出る。
それでも、ここには家族がいて、猫たちがいる。一緒にいるのが、常に感じられる。
前の家に足りなかったのは、たぶん、これだったんだと思う。
まさか、こんな家だとは知らなかった。
でも、知らないまま、好きになっていた。

コメント